【短編】夕暮れモーメント



テレビの前まできて、もう一度、息をつく。




「すみませーん、ちょっと、いいですかー」



何人かのおじいちゃん、おばあちゃんがこちらに顔をむける。
しかし、ほとんどが私の言葉には気づかないままだ。



「あのー、」



私のあまりよく通らない声はお昼ご飯中のざわざわに吸い込まれていく。


私の一番近くに座っているおばあちゃんだけが私の方をしっかり見て、頑張れ、と笑いかける。





もう一度深呼吸。




「あの、」


「そろそろクリスマスコンサートを始めるので、後ろの方に集まって下さい。車椅子の人は後で私たちが行きますから、少しお待ち下さい」



もう静かになってもらうことを諦めて一息に話し始めた私のところに高島さんが走ってくる。



「高島さん!」


高島さんは頭から足まで、サンタのコスプレをしていた。
ひげまでつけていて、口元が全然見えない。



「ひなたちゃん!サンタのコスチュームまだ着けてないじゃないの!ほい、早く着てくる!!」


「は、はい!」


背中を勢いよく叩かれて、そのままスタッフルームの方に送り出される。


「高島さん!車椅子は私と東先輩が動かしますので!」






振り返ってそこまで言い終わってスタッフルームに足を踏み入れた途端、目が覚めるような鮮やかな金色が私の視界に飛び込んできた。





金色に眩しく光るサックス。 

 



一瞬、時間の流れが止まったように感じる。





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