【短編】夕暮れモーメント
「私、ちょっと、様子見てきます」
「いいよ」
「いや、でも」
「行かなくていいから」
「どうしてですか?」
「聴くか聞かないかは個人の自由だもの」
た、確かに…。
でも。
さっきの光景が頭に焼き付いてしまって、
気を取り直して再び聴き始めた演奏も、どこか耳に入っていかない。
なんか引っ掛かる、あの人の表情。
演奏中に出ていくことを何とも思わないほど、興味がなさそうってほどでもなく。
だからといって、最後までとりあえず聴いていってやろう、という心遣いも余裕もない。
演奏の途中だったが、私は何も言わずに席から立ち上がった。
「ひ、ひなたちゃん」
高島さんは驚いたような顔をしたが、演奏中なのであまり大きい声を出せない。
「すみません!やっぱり私、気になるんで話だけ聞いてきます!!」