この世界は7で終わる
陽が傾き、空がグラデーションを魅せた。ガラスのない窓枠からの赤い陽光を、瞳が吸い込んでいった。眩しさに目を細めれば、太陽の輪郭が見えた気がした。
今日も、淡々と、終わりを迎える。
ーーーー・・これは、漠然とした焦り。
今日は何が出来たのだろうか。ルカとどんな会話をしてどんなことを思い、今日をどれだけ有意義に過ごせただろうか
故郷を離れ3日目、もうすぐ明日になってしまう。
「アトリ、見ろよ」
陰っていた私の心に、スルリと入り込んでくるのはやっぱり彼。床に腰を下ろす私よりも、幾分高い場所から私に視線を促すルカ。利き腕とは反対の腕を持ち上げソレを指し示す。
「…夕日 ?」
「日の入りは西だろ?なら今俺達が向いている方向は西ってことだ。これで方角が分かったぞ」
そんなことを自慢げに言うもんだから、なんだか可笑しくて。ルカがリアカーから沈む夕日を眺めている内に、その表情を盗み見る。
昔は女の子のような顔をしていたのに、いつの間にか男の子そのもの。それが嬉しくもあり、寂しくもある。
「なぁ、知ってるか」
「なに」
「ここからずっと西にいくと、人間の何十倍もの大きさがある女神の像があるらしい」
「なにそれ。お得意の古書の情報 ?ーーただの架空の物語かもしれないじゃない」
「いや、明らかに事実を書いてるような文字列だったんだよ」
「ルカ、英語が読めるようになったの ?」
「だいぶな。でも、まだ読めない文字もある」
この地球にはいろんな文字や言語がある、らしい。
それは祖父からよく聞かされていたけれど、実際に今使われているのはたったの数種類。今はもう、何百年も前にあった言語もそれに連なる文字も書物でしか確認出来ない。
私の祖父は古代の人達、そしてその暮らしを研究し後に残そうとしていた変人。もう残り僅かな『先』に何かを残すなんて、どうしようもないことなのに。