ティールームの不思議な出来事
「そうか。悪いんだけれどさ、ちょっと用事が出来て、30分ぐらい遅れそうなんだ。また連絡するから、それまで時間を潰してもらっていいか?」

「うん、わかった」

 電話を切った。

 今まで遅刻することはなかった彼。

 用事があるならば仕方がないけれど、何故か不安な気持ちに襲われた。


 再び電話があったのは、それから1時間以上経ってからだった。

「もしもし?」

「ごめんな、ずいぶん待たせて。今、駅前に着いたから」

「わかった」

 待ち合わせの場所についた。

 雨にずぶ濡れの彼。

 慌ててハンカチを差し出した。

 彼はそれを受け取らずに、急に抱きしめてきた。

「ごめん・・・」

「どうしたの?」

「ちょっとの間、このままでいてくれ」

 そういう彼に、動けないまま時間が過ぎていった。

 どのくらい時間が経ったのだろうか。

 彼は抱きしめていた両腕を放した。

「全身ずぶ濡れじゃない。傘をどこかに忘れてきたの?」

 聞きたいのはそんなことじゃないのに。

 聞いてはいけないような気がした。

 彼の顔を見たときに。
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