千の春
愛の夢
「岬ちゃんってさ、学外に恋人いそうだなって思ってた。学生コンサート聞くまでは」
ほろ酔い状態でそう言ってきたのは、声楽科の丸井くんだった。
大学近くの創作和食店での打ち上げの席。
乾杯から一時間ほど経ち、みんないい具合にお酒が回っていた。
だからこそ、普段だったら話しかけづらい岬にも声をかけてきたのだろう。
ライムソーダを飲んでいた岬は面倒くさそうに顔を上げる。
泡のなくなったビールを片手にニコニコした丸井くん。
赤らんだその顔は、酔ってますという感じだ。
「いないよ、そーゆーのは」
「作る気もないの?」
「今のところは」
酔っ払いに絡まれることほど面倒くさいことはない。
さっさとどこかに行ってくれ、と願った。
そんな願いもむなしく、丸井くんは岬の隣に本格的に腰を下ろした。
「大学の男子はどう?」
「どうって?」
「気になるやつとかいないの?」
「・・・・さぁ」
投げやりに答えたら、なんだよそれと笑われた。
丸井くんとは何度か話したことがある程度で、こんな突っ込んだ話をするような仲ではなかったはずだが。
お酒の席だからここまで聞かれるのだろうか。
とにかく、一刻も早くどこかに行って欲しい気持ちで岬はライムソーダを飲む。