千の春
「彼は神様に気に入られている。消えることなんてできない」
「あっそ。じゃあさ、もう私のとこに来ないでって伝えて」
「岬、彼が気の毒だよ」
「はぁ?死人に取り憑かれてる私の方が気の毒でしょ」
日向はようやく「何か」から岬に目を移した。
非難するようなその目に、岬はふいと目をそらす。
気分が悪い。
明日はレッスンが入っているのに、こんな気分じゃまともに弾ける気がしない。
なんとか今夜中に気分を切り替えなければ。
「岬、知ってるんでしょ。彼のことも、彼の気持ちも」
バタン、と。
恨みがましい日向の言葉を最後まで聞かずにドアを閉めた。
数秒後、ペタペタというサンダルの音。
日向が自分の部屋に帰った音。
岬はようやく、ふぅと息をつけた。
冷蔵庫を開け、青い紙パックの牛乳を出す。
マグに注ぎ、レンジでチンする。
気分を落ち着けるのにはホットミルクが一番だ。