千の春
イゾルデの愛の死
春の嵐のように突然岬の前に現れた千春。
彼がいなくなった時は、桜が一瞬で散るように、パッと消えた。
日向も似たようなもので、春の穏やかな日に岬の前に現れた彼は。
夢がパッと醒めるように、いつの間にかこの世界から消えていた。
「日向?うちの二回生にそんな名前の子いたかな?」
「岬の隣の部屋って弦楽のなっちゃんでしょ?」
日向は、いつの間にかいなかったことになってた。
「日向?知らないよ、そんな奴。何、岬の知り合い?」
学祭で日向と共同の焼きそば屋をやっていた先輩ですら、この言い草だった。
岬は重い足取りで校内を歩く。
私は、この一年間、誰と話して、誰と隣の部屋だったのか。
いや、この際、日向はいなかったのかもしれない。
全て私が見た幻、かもしれない。
そこまで考えたが、やはり納得はできなかった。
むしろ、しっかり考えれば一つの答えは出てくる問題だった。
日向はしきりに岬に対して千春をほのめかす言葉を言った。
岬に千春の存在を訴えかけてきていた。
千春だ。
千春が関係してることは間違い無いだろう。