千の春
それからの岬は手当たり次第だった。
近場の神社、寺へ歩き回る。
パワースポットと噂されている場所へ赴く。
学生故にお金に限りはあったが、できるだけ神様に関係してそうな場所に足を運んだ。
日常は格段に忙しくなり、ピアノの練習に充てる時間は明らかに減った。
岬を苛立たせる点はそこだけだったが。
けれど、意外なことに先生の評価は良かった。
「いいね」
「練習時間、減ってるんです」
演奏を終えてから、言い訳を口にする自分が嫌になった。
どんなに忙しくても、その時自分にできる最高の演奏をすべきなのに。
うまくいかない理由ばかり口から出る。
ため息をつく岬に、先生は満足そうに笑った。
「いいよ、なんか、模索してる感じがする」
「お世辞はいいです」
「お世辞じゃなくて。今までの岬さんって、迷わず一つの道に突き進む感じだったけど、最近いろんな道を探してる感じがしていい」
ニコニコしてる先生に岬はうろんな目を向ける。
いろんな道を探す。
まぁ、確かに物理的にいろんな場所を歩き回ってはいるけど。
ピアノに集中していた頃よりもいい評価に釈然としないものを感じながらも、岬はレッスン室を後にする。
そんな日々を過ごしていたら。
大学に入って三年目の冬に、再会は突然訪れた。