腹黒王太子の華麗なる策略
まだ戦いの決着はついていないし、自分の身体のことを考えると、そんなに長時間は止められない。

せめてアンが目覚めて落ち着くまで……。

彼女の身体を抱いてゆっくり浮上する。

アンを抱いて岩を登り、ラミレス王が眠っていた洞窟に彼女を運んだ。

地面にアンを寝かせ、彼女の頰を軽く叩きながら呼びかける。

「アン、アン」

水を大量に飲み込んだのか、アンが目覚める様子はない。

マズイな。

彼女の心臓辺りに手を置き、その唇に目を向けた。

唇の色が青紫色になっているし、身体も冷たい。

「大丈夫。死なせない」

アンに向かってというよりは、自分に言い聞かせるように言う。

そして、彼女の唇に自分の唇を重ね、息を吹き込んだ。

〝アン、戻ってこい〟

何度も息を吹き込みながら、心の中で念じる。
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