腹黒王太子の華麗なる策略
しばらくして、クリスの傷口から光が放出された。

「なんだこの光は!」

みんなが驚きの声を上げ、あまりの眩しさに手で目を覆う。

でも、私にははっきり見えた。

クリスの胸の傷が塞がっていく。

お願い、治って!

心の中で何度も願った。

すると、傷は跡形もなく消え、私の手を覆うように重ねていた父の手もいつの間にかなくなっていた。

クリスが「う……んん」と身じろぎしながらゆっくりと目を開ける。

そのサファイアの綺麗な瞳の中に私が映った。

クリスが私を見ている。

彼は生きてる!

そう思っただけで、目に熱いものが込み上げてきた。

すると、クリスは手を伸ばして私の頰に触れる。

「また、泣いてる。アンは泣き虫だな」

クリスはいつものように優しく笑ってその長い指で私の涙を拭った。

その指の爪は、もう黒くなくなっている。
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