腹黒王太子の華麗なる策略
3、豹変する王太子さま
「今日は月が綺麗だね」

山の向こうに見える満月を見て、クリスは頰を緩める。

彼の顔を照らすのは、その月明かりの光と所々に置かれた蝋燭の炎だけ。

「……うん」

私は、小さく相槌を打つ。

今日のお昼に聞いたクリスの結婚の知らせはとても衝撃的で、地獄の底に突き落とされた気分だった。

ショックのあまり、涙も出ない。

魂が抜けて、暗い闇の中をずっとさまよっているような……そんな感じがする。

「結婚が決まっておめでとう」とクリスに言わなきゃって思うのに、なかなか言葉が出てこない。

「アン?元気がないけど、どうかした?」

クリスが後ろにいる私を振り返る。

「ううん。今日はコレットと一緒に侍従長に頼まれて買い物をしてきたからちょっと疲れちゃって」

咄嗟にそう取り繕うと、クリスから目を逸らした。

言えるわけがない。
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