腹黒王太子の華麗なる策略
〝クリスが結婚するから悲しいんだって〟

言えば、彼を困らせるだけだ。

「そお?ここは滑るから気をつけてよ」

クリスは私に優しく注意し、大きな岩風呂に向かって歩き出した。

私も湯けむりが立ち込める中、クリスの後をついて行く。

岩風呂の前まで来ると、クリスは立ち止まって、自分が着ている衣の腰紐を緩めた。

それを合図にして岩場に彼の着替えを置いて、彼の裸を見ないようギュッと目を閉じる。

「アンは入らないの?」

クリスがどこか楽しげに私を風呂に誘うが、「無理」
と返すだけで精一杯。

いつもなら笑いながらもっと私をからかってくるのに、今夜の彼は違った。

私の異変に気づいたのか、クスリと笑いもせず、クリスは黙り込む。

目をつぶっていても彼の視線を感じた。

私をじっと見ている。

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