腹黒王太子の華麗なる策略
ディオンの言葉が本当なら、クリスは兄のような気持ちで変な男を私に近づけないようにしたと考えるのが一番妥当かもしれない。

でも、そんなことを聞いても慰めにもならない。

私が想うように、クリスは私のことを好きではないのだから。

なのに、なぜディオンはそんな話を持ち出したのだろう。

「考えれば考えるほどわからない」

ハーッと嘆息しながら廊下の雑巾がけをしていたら、
ラルフ宰相が現れた。

「そんな溜め息をついて、何かあったのですか?」

ラルフ宰相は屈んで私の顔を覗き込む。

「あっ……いえ、何でもないです」

私は慌てて横にブンブンと首を振った。

「目の下に隈が出来ていますよ」

ラルフ宰相が自分の目の下をトントンと指で叩く。

「あっ……き、昨日、本を読んでいたら、夜更かししてしまって……」
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