いつか、君の涙は光となる



 吉木との待ち合わせ場所は、なぜか目黒川だった。桜が見たいと言う彼の要望があったためだ。
 日本に戻って来たばかりの彼とは、三ヶ月ぶりに会う。もう会うことに緊張はしなくなったし、特別おしゃれもしていない。
 すでに屋台もお店も閉まった時間帯だったので、そんなに混んでいなかった。橋の上で桜を見上げながら彼のことを待っていると、まだ息が少し白いことに気づいた。春だけど、夜はまだ少し肌寒い。街灯に照らされた夜桜が、綺麗な列を作って川の遠くまで咲き誇っている。
 その景色に見惚れていると、ふと隣にやって来て、同じように桜を見上げる人がいた。
「久しぶり、元気?」
「はは、普通顔見ながら言うでしょ」
 ネイビーのトレンチコートを着た吉木は、少しだけ笑って、改めて私の顔を見てただいまと言ってきた。高校生の時よりぐんと背も伸びて、大人っぽくなった彼は、前よりも確かに取っつきやすくなった。
 山での再会から、私たちにはひとつだけ大きく変わったことがある。それは、涙を流してから能力が消えたことだ。
「能力失ってから、生活に支障はない?」
「はは、ないよ。仕事で、この人泣くことあるのかってくらい冷徹な人に会った時は見たくなるけどね」
 吉木の質問に笑って答えると、彼も同じように笑った。涙を取り戻したら能力が消えるなんて不思議だ。神様は、私たちにどうしてこんな力を与えたんだろう。その答えはわからないけれど、この力が無ければ吉木と交わる人生を歩んでいなかっただろう。
「詩春が千種の下で働くなんてな。世間狭過ぎ」
あんまりにも彼が隣で安心しきったように笑うので、違う表情を見たくなって私は急な話題を出した。
「そういえば私、宗方君と別れたんだ」
「はあ?」
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