いつか、君の涙は光となる
 吉木は軽く噴き出してから、怪訝そうな表情で私を見つめた。宗方君と付き合うと報告した時と同じ顔をしていて、私はそのことに噴き出してしまった。
「おい、笑ってんなよ。理由は」
「友達の関係の方が、お互い幸せなことに気づいたの」
「はあ? なんだよその抽象的な理由」
 吉木の眉間のしわがどんどん深くなっていく。やばい、結構本気で怒っている。でもそんな風に言われても、ダメだったのだから仕方ない。
「付き合っても不機嫌になるし、別れても不機嫌になるんだね、吉木は」
「当たり前だろ、真剣なんだよ」
「はは、真剣って何に」
「お前の幸せにだろ」
 あまりにも当然のようにそんなことを言ってのけるので、私は思わず固まった。視線に困った私は、桜の花びらが池に落ちていく様子を眺めた。吉木も何も言わずに、私と同じように花びらを見つめる。
 私も、口には出さないけれど吉木の幸せを願ってる。こんなに近くにいるのに、お互いの幸せを願ってるだけの私たちの関係は、一体なんだろう。君と出会ってから、随分と長い年月が過ぎた。

 ひらひらと、柔らかな花びらが再び落ちてきて、吉木の肩に着地した。それを払いのけようと彼の肩に手を伸ばすと、彼としっかり目が合った。彼があまりにも優しい目をして私を見ていたので、なんだかどうしようもない気持ちになって、ずっと胸にしまっておこうと思っていた言葉が溢れ出しそうになった。
 何か言おうとして口を閉じた私を見て、吉木は不思議そうに顔を傾げる。
「おい、なに言おうとしたんだよ」
「なんでもないよ」
「なんでもなくないだろ」
「本当になんでもないってば」
 押し問答を繰り返し、それでも口を割らない私に、吉木は呆れたような視線を向ける。もう大人になったはずなのに、彼と話していると子供に戻ってしまうのは何故だ。喉元から出かけた好きという言葉を飲み込むために俯いた。

「お前が本音言ってくれなくなったら、俺いつ伝えたらいいんだよ」
「え、何を……?」
「なあ、いつになったら、お前のこと好きだって伝えていい」

 さわさわと桜が揺れる。川に落ちた桜が静かに波紋を作る。隣にいる君は、今どんな顔をしているの。全く予想外の告白に、頭が追いつかない。ノーリアクションのまま固まっていると、バシッと背中を叩かれた。

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