いつか、君の涙は光となる
「明日からゴールデンウィークで良かったー」
ばたんとソファに寝転がった私に、吉木が乱暴にタオルケットを投げた。付き合ってから初めて彼の家に来たけれど、緊張感なんてまったく抱く暇もないまま、今に至る。
私が手伝わないと、吉木が生活感のない箱みたいな部屋で暮らすことは目に見えていたので、かなり真剣に手伝った。これは時給三千円もらってもいいくらいだ。
そんなことを考えて寝そべっていると、吉木がソファの前にあったクッションに腰を下ろした。
ソファに寝そべっている私の目線ちょうどに、座っている彼の後頭部がある。真っ黒でサラサラな髪の毛が、目と鼻の先にあるので、私は思わずそれに触れてしまった。
「なんだよ」
「吉木が、いるんだなと思って」
「当たり前だろ、ここは俺の家だ」
「顔疲れてるね」
「お前もな」
吉木はソファに肘を乗せこちらに振り返ると、私の顔をじっと見つめた。背の高い吉木と、こんな風に同じ高さで目線を合わせることなんて滅多にないから、一瞬ドキッとした。
綺麗に通った鼻筋や、透けるように美しい白い肌や、鋭く攻撃的な瞳が、今すべて手に届く範囲にある。ずっと遠かった吉木が、今目の前にいる。その事実がなんだか信じられなくて、頭の中がぼんやりとしてきた。
「詩春」
そう私の名を呼んで、彼が顔を近づけてきた。彼が私の名前を呼ぶのは気まぐれで、不意打ちに囁かれるとドキッとしてしまうことがある。
空気を感じ取って、吉木と同じように静かに目を閉じ、唇が触れようとしたとき、インターフォンが大きく鳴った。
吉木は何事もなかったかのように、私から離れてすっと立ち上がった。
宅配便を受け取りに行った彼の足跡を聞きながら、私は心臓あたりを手で押さえて、強く目を閉じた。