いつか、君の涙は光となる
びっくりした。吉木の行動は、いつも突拍子がないから。
想いを伝えあってから一ヶ月が過ぎたけれど、私達は忙しさに流されてこうしてゆっくりする時間を取れなかった。やっと会えたのが今日なのだが、吉木と付き合っているという感覚がまだ現実的になっていない。
吉木が荷物を受け取って、こちらに近づいてくるのが分かる。
「昼適当に買ってくるけど、何か食いたいのある?」
「うーん、唐揚げとビール」
「了解、待ってろ」
そう言って、彼は財布だけ持って家を出て行った。一人暮らしには広すぎる部屋にぽつんと一人になった私は、不思議と体の力が緩んで、少しは彼と二人きりの空間に緊張していたのだと分かった。
朝日は眩しいけれど、徹夜明けのせいで、緊張がほぐれた瞬間どっと眠気が襲ってきた。
目を再び閉じると、隣の部屋から聴こえるピアノの音色がどんどん鮮明になってくる。なんという曲なのかは分からないが、嫌いじゃないメロディだ。その音色に吸い込まれるかのように、私はそのまま眠りについてしまった。
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