いつか、君の涙は光となる
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微かに、紙が擦れるような音がして、私はふと目を覚ました。先ほどと同じ位置で、吉木が小説を読んでいる。
目を覚ましてすぐそばに彼がいることに、最初は驚いたけれど、引っ越し作業中に寝てしまったことを徐々に思い出した。
「起きた?」
気配を感じ取ったのか、寝息が途切れたからなのか、吉木が本を閉じて私の方を振り返った。
私は寝ぼけ眼のまま、ごめん寝てた、と謝った。机の上には、リクエスト通り唐揚げとビールが並んでいる。その横にある時計は十ニ時をさしていて、一時間近く寝てしまっていたことを理解した。
「死んだように寝てるから、起こせなかった」
「ごめん、ちょっとうたた寝するつもりが……え」
突然、吉木が私の頬に触れてきた。冷たい指が頬を伝い、何かを拭った。
吉木の、感情を読み取れないような、半月型の瞳が真っ直ぐにこっちを向いている。
それから、いつもより少し優しい声で、彼は呟いた。