いつか、君の涙は光となる
拳が降りかかってくる、そう思って目を閉じた瞬間、倉庫のドアが開く音が聞こえた。急に外の明るい光が入ってきて、私は一瞬目を細めた。そこには、ジャージ姿の吉木が立っていた。
「鍵閉めたはずじゃないの?」と、焦ったように小声で会話をし出す先輩を他所に、吉木は一度こっちを見ただけで、スタスタと荷物をまとめ始めた。先輩はさすがに私の胸ぐらを掴むことを止めて、気まずい表情で吉木のことを見つめていた。
待ってよ、行かないでよ、助けてよ。本当はめちゃくちゃ怖いんだよ。そのドアをまた閉められたら、私はまた逃げ場のない理不尽な怒りをぶつけられてしまう。吉木は私のことを嫌いなのは分かってる。だけどお願い、今だけは行かないでよ。さっきから本当は、震えが止まらないんだよ。

そんな願いも虚しく、吉木は一切私の方を向かずに、必要な用具を持って外に出てしまった。バタンというドアが閉まる音が、絶望の音に聞こえた。
「助けてもらえなかったね、かわいそ」
分かっていた。吉木はそういう人間だ。そして私は彼にとことん嫌われている。当然の結果だ。「今度こそ鍵閉めときなよ」という部長の指令に、他の部員が従う。終わりだ。何発殴られたら気が済むのだろうか、私はすでにそんなことを考え出していた。
「あんた同級生からも嫌われてんじゃん、ウケる」
 バシン、という音が、倉庫内に響いた。こんな時でさえ、目も合わせてもらえなかった。その事実がショックすぎて、私は痛いという感覚さえ抱けなかった。黙っていると、その反応が気に食わないというように、もう一度バシンという音が響く。
 この人は、こんなことをして楽しいのかな。そんな生ぬるい考えがよぎったけれど、楽しいからしているのだろう。自分が過去にされたことを仕返すのに、理不尽という言葉は存在しないのだろう。


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