いつか、君の涙は光となる


 赤く腫れた頬を見て、万里は只でさえ大きな目を更に見開いて私に駆け寄ってきた。
「なに、どうしたの」
「先輩にやられた」
「はあ⁉ なにそれ、ありえないんだけど」
 スクールバッグを机に置いて、私はいつも通り席に座る。眉間にしわを寄せて、顔を真っ赤にして怒る万里に苦笑しながらも、私自身も静かな怒りに溢れていた。後輩という存在をおもちゃのようにしていいと勘違いしているバカな女たちにも、助けてくれなかった薄情なクラスメイトにも、諦めて戦おうとしない自分自身にも、すべてに腹が立つ。
 私が万里だったら、すぐに教師に相談するだろうし、私が沙子だったら、容赦なく仕返している。そのどちらもできない私は、一体なんなんだろう。
「被害者気取りしてる暇あるなら、辞めろよ」
 悶々としている私に向かって、ナイフみたいに鋭い言葉が突然襲い掛かってきた。顔を上げると、そこには冷たい瞳をした吉木が立っていた。
 なにを、言っているんだ、この人は。被害者気取り? 気取りって、私が被害者じゃないなら一体誰が被害者だというのだ。目を見開いたまま彼を黙って見つめていると、彼は「変わんねぇな、その顔」と言って自分の席に向かっていった。それが、私が彼と初めて目を合わせた瞬間だった。
変わんないって、どういうこと……? 一体いつの私と比べて言っているのだろうか。
 そんな吉木を追いかけて、万里がバシッと彼の背中を強く叩いて罵倒した。
「なんなの吉木この前から。あんたそこまで言う権利ある⁉」
「あるよ」
「はあ? マジで意味分かんないんですけど」
 あるよ。その言葉だけが、私の頭の骨まで響いた。私のことを罵倒する権利があると、この人は言ったのだろうか。たかがクラスメイトが、それほどの恨みを持っているというのか。
「嫌いなら、ほっといてよ」
 今、そう言えたなら。そんな言葉を口にできるはずもなく、チャイムが鳴ってしまった。

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