いつか、君の涙は光となる
吉木の、長い前髪から、切れ長の一重の瞳が覗いている。真っ黒な瞳に、困惑した表情の私がいる。彼の真っ直ぐな髪の毛に、夕日が反射して一瞬目を細めた。
「私、吉木が怖い……」
思わず口から出た言葉に、吉木は一瞬眉を動かした。
分からない、なんて、こっちの台詞だよ。私は吉木が考えていることのほんの一パーセントすら理解できていないよ。でも今一番知りたいのは、「私のことが分からない」ということは、吉木にとって困ることなの? 少しでも私のことを知りたいと思ってくれたの?
彼に踏み込むなら今しかない。積もり積もっていた気持ちが溢れ出して、あまりにも直球に口から出た。
「吉木は、どうしてそんなに私のことを嫌ってるの」
「理由なんか知ってどうすんだよ」
吉木は、私が投げたストレートな球を受け止めるでも避けるでもなく、そっと流れを変えるように往なした。
わかりやすく不満げな顔で吉木を見つめていると、彼は「そんなに知りたいなら言ってやるよ」というように、私を少し睨んでから口を開く。
「人の弱みに付け込んで、偽善者ぶってるお前見てると吐き気がすんだよ。……人の心の内側に、勝手に入ろうとすんな」
……あれ、その言葉、最近どこかで聞いたばかりだ。沙子に丸っきり同じことを言われたばかりじゃないか。まさか彼にもそう思われていたなんて、だとしたらクラスの他の誰かもそんな風に思っているんじゃないだろうか……。まだ塞がっていない傷口に、ぐりぐりと塩を塗りたくられたような気分だった。
痛い。……とても、痛い。心なんて体のどこにあるかなんてハッキリ分かってないのに、ちゃんと痛みを感じるなんて不思議だ。
「……ごめんなさい」
何にごめんなさい? 偽善者ぶったことなのか、人のプライバシーに踏み込んだことなのか。よく分からないままにごめんなさいを口にしてしまった。