いつか、君の涙は光となる
記憶の海
どういうことなのか、詳しく話してくれと言われてから三日過ぎていた。どうにか吉木と接点を作らないようにして逃げている私だけど、そんな悪あがきはもう直ぐ限界がくることは分かっていた。
自室のベッドに膝を抱えて体を縮こめながら、どうしてあんな暴露をしてしまったのか私は激しく後悔していた。バカだ。嫌われている上に不思議キャラ設定を上乗せなんてしたら、吉木のことだからSNSで恐ろしく拡散するに違いない。説明しても信じてもらえるわけがない。なんであの時あんなに焦ってしまったんだろう。
どうしてこれ以上嫌われたくないと、思ってしまったんだろう。
「詩春、入るよ」
布団の中で唸り声を上げていると、コンコンとノックする音が響き私は跳ね起きた。そこには、心配した様子のお父さんとお母さんがいた。
二人はベッドの下にしおらしく座り込むと、じっと私の顔を見つめてきた。
「……詩春、学校側から電話がきて、部活でのこと知ったよ。気づかなくて悪かったね」
「詩春、お母さんもごめんね」
……なんだ、そんなことか、と、つい口をついて出てしまいそうだった。吉木が拡散したいじめ録音は教育委員会まで巻き込む大事になり、先輩達は自宅謹慎を命じられたそうだ。顧問も厳重注意を受け、かなり肩身の狭そうな顔をして過ごしている。クラスの子にも情報が入ってしまったため、私は今腫れ物を触るような扱いを受けている。
「……部活、やめていいからね。逃げられることからは逃げなさい」
最近お父さんになったばかりのお父さんは、神妙な面持ちで私の手を握ってきた。こんなことされてまで逃げてない理由を、この人は知らない。沙子という名前さえ知らないのだ。そう思うと、心のどこかがすうっと薄ら寒くなっていく。
「お母さんも全然責めないから。これからは、詩春がやりたいことをやっていいから」
「……ありがとう」
自分でも驚くくらい乾いた「ありがとう」が、目の前にいる二人の顔を信じられないほど和らげた。
「言いにくいだろうから、私から顧問の先生に辞めるって言ってあげるわ」
「辞めないよ、大丈夫だから」
きっぱりと言い切ると、両親は戸惑ったような視線を私に送ってきた。だってここで辞めたら、本当の本当に可哀想な子になってしまうじゃないか。ただでさえ大事にされて困ってるというのに。私はただ、泳ぎたいだけなのに。沙子に罪悪感を抱かせたくないだけなのに。