いつか、君の涙は光となる
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最寄駅で立っていると、黒いボックスカーから顔を出した私服姿の宗方君が手を振っていた。私はリュックサックについたキーホルダーを揺らしながら、走って彼の元へ向かう。
「おはよ、詩春。荷物多すぎじゃない? 結局泊まりOKになってよかったな」
「うん、言ってみるもんだね。ちょうど親も今日予定があったみたいで」
パーカー姿の宗方君は、車から降りて私の荷物を後ろに積んでくれた。車にはすでに万理とサッカー部の男子である長谷川と、吉木が乗っていて、女子は結局私達だけだと昨夜聞かされた。
車に乗り込むと、私は運転席にいる宗方君の兄に向かって声をあげる。
「お迎えありがとうございます、今日はよろしくお願いします」
「はーい、よろしく。シートベルトちゃんと締めてね」
宗方君のお兄ちゃんの顔はミラー越しにしか見えなかったけれど、雰囲気は少し派手ながらも顔立ちは宗方君にそっくりだった。ちょうど今二十歳で、美容師の専門学校に通っているらしい。
「宗方兄、イケメンだよね」
隣の席の万理がボソッと耳打ちしてきたので、私はうんと首を縦に振って笑った。お調子者キャラの長谷川が、俺の方がイケメンだろと、背中を叩いてきた。
そんなくだらない会話をしているうちに、車は高速に乗りどんどん山奥へと向かって行く。吉木は朝が苦手なのか、ずっと車の中で眠っていた。
車から降りると、スーッとした爽やかで少し冷たい風が胸の中に入ってきた。空気が美味しい、という感覚を初めて抱いたことに、私は少し感動していた。ずっと眠っていた吉木は、冷たい風に当たって眠気を飛ばそうとしているのか、私と同じように深く呼吸をした。
「吉木が参加するなんて、珍しいね。こういうのノリ悪そうなのに」
万理が吉木に向かってそう言い放つと、彼は小さく「山好きなんだよね」と呟いて、車から大きい荷物を降ろし始めた。
山が好きって、意外だ。桜も紅葉も興味のなさそうな顔をしているのに、意外と自然が好きなんだろうか。吉木の好きなものを初めて知った気がする。暖かそうな青いウェアのチャックを口元まで上げて、彼は大荷物を担いで宗方兄と一緒に先陣を切っていった。