いつか、君の涙は光となる


「ねぇ、この中の誰かと付き合ったりしてるの?」
食事を終えて、ベランダを出てすぐそばにあるバーベキューセットの火で温まっていると、隣にそっと宗方兄の友人であるお姉さんが座ってきた。真っ暗な夜空の下、燃え上がる赤い炎がお姉さんの白い肌を照らしている。私は急な質問に驚きながらも、いいえと首を横に振った。
「そうなんだ、いいなって思ってる子はいないの?」
「いえ、そういう視点では……」
「なあんだ、つまんないのー。さっきりんご食べさせてくれてた男の子は?」
見られていたのか。私は少し恥ずかしくなりながらも、そういうのではないとまた首を振った。
「吉木は私のことが嫌いですから」
「なにそれ、そう言われたの?」
「はい、言われました」
「はあ? 何それ意味わかんないね」
お姉さんは私の言葉に眉根を寄せて、理解できないという顔をした。私もよく分からない。私のことが嫌いなはずなのに、どうして彼はキャンプに誘ってくれたんだろう。

「本当に嫌いな奴に嫌いって言える人って、いんのかなこの世に」
「あの人は言えるタイプの人間ですよ。お姉さんが今思ってる、ツンデレとか気持ちの裏返しとか、そういう感じではないです」
「はは、意外と達観してて面白いね、詩春ちゃん」
お姉さんはケラケラと笑ってから、缶チューハイをぐびっと飲み干す。缶チューハイを持つ指がとても長くて細くて綺麗で、爪先に光るパールに思わず見惚れた。二十歳って、指先まで大人なんだ。自分の丸い爪が、なんだか少し恥ずかしくなってくる。


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