いつか、君の涙は光となる
教えてほしい
誰かが涙を流しているところを見るのは辛い。その人が自分にとって大切な人だったら、尚更悲しい。何かしてあげなきゃと思うけど、話を聞く以外に私は何かできた試しがない。こんな私に、神様はどうしてこんな力を与えたのだろうか。能力と引き換えに涙を奪われた私が、人の痛みを分かるわけないのだ。
それは、一度しか泣いたことのないあの人も一緒で、きっと私と吉木は、人の痛みに鈍いのかもしれない。
「食事の時くらいスマホしまいなさいよ」
万理から送られてきたキャンプの写真が、立て続けに私のスマホを揺らした。ブーブーと震えるスマホが、母の不機嫌さを逆撫でしてしまい、眉間のしわを濃くさせた。
再婚してから、ずっと機嫌のよかった母が、ここ最近分かりやすく情緒が不安定になっている。前の父と離婚した時はよくあることだったが、新しい父はこんな様子の母を知らないので少し戸惑っているようだった。
なんと声をかけたらいいのか分からない顔をしている気まずそうな父を見て、少し気の毒になった私は、苛立ちを跳ね返すように口を開く。
「お母さんこそ、食事中くらい、機嫌良くしたら」
ピリッとした空気が、素材の水分でひたひたになった野菜炒めの上を流れる。申し訳ないけど、私だって今日はそんなに調子が良くない。あの日の吉木を思い出しては、苛立ちと疑問で心臓がぎゅうぎゅう圧迫されているのだ。
母は何か言い返すかと思ったが、案外私の言葉で冷静になったようで、そうね、と静かに呟いてから、抱えていたものを吐き出すように話し始めた。
「……前田が、再婚したらしいの」
「え……」
予想もしていなかった言葉に、食欲が一気に減退していくのを感じた。味が全くしなくなったキャベツを飲み込んで、私は父と母の顔を交互に見た。
「そうか、よかったじゃないか。あっちはあっちの生活ができて」
「私はあいつがのうのうと生きていくことが許せないのよ」