いつか、君の涙は光となる
……父が、本当の父が、私の知らない誰かと再婚した。面会すら許されていなかったというのに、私はこれでいよいよ父との接点がなくなってしまったような、そんな気持ちになった。
ショックを受けてはいけない。咄嗟にそう思った。しかし、動揺をうまく隠すことはできなかった。
「結局証拠不十分で訴えられずに済んで、人生に後ろめたさとかないのかしら……人殺しのくせに」
やめて、聞きたくない。私は心を落ち着けるためにお茶を一口飲む。味がしない。鉛でも飲んだかのように、お腹の中にずしっと重いものが溜まっていく。
「しかももう子供もいるって……信じられない。これ以上自分の汚い血を分けることを罪だと思わな……」
そこまで言いかけて、母はハッとしたように口を閉ざした。私は、そんな母をじっと見つめて、心の奥にあった膿を吐き出すように口を開く。
「じゃあ、そのお父さんの汚い血を引いた私の存在って、どうなるの」
「詩春、違う。あなたはもう、私と前田の子供じゃなくて、私だけの子供だから」
「よく、分かんないよ……」
分からない。こんな、問い詰めても答えの出ないことを、口にしてしまった自分の本心も分からない。母も私も悪くない。悪いのは父で、父の存在そのもので。
でも、どうしたって消えないじゃない。母は父を取りたくても取りきれない染み付いた汚れみたいに言うけれど、もうどうしようもないじゃない。私の父はあの人なんだから。あの人がいなかったら、私は生まれていないんだから。しょうがないじゃない。

そこまで考えてハッとした。もしかしたら吉木は、私の父の存在を知っているのだろうか。中学では広く噂が流れてしまったので、遠く離れた高校へ進学したけれど、もしかして同じ中学校出身だったのだろうか。だから、私のことを嫌っているんだろうか。
だとしたら、それこそ、どうしようもない。手の施しようがない。過去は消えないし、それでも私は生きるしかないんだから。

「詩春。詩春は、前田さんの子でもあるけど、今は僕の子供だよ。少しずつ、時間かかるかもしれないけど……色んなことを溶かしていこう」

父の声に、私は顔を上げることすらできなかった。いつか、溶かすことができるだろうか。このずぶずぶに汚れた思いも、すべて。

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