いつか、君の涙は光となる
……怖い。たまらなく怖い。二時間離れたこんな場所でも、噂が広まっているのだろうか。進学先なんて、誰にも教えていなかったというのに。動揺した私は思わず、自分のスマホを取り落としてしまった。
「あ! 今嫌な音した。大丈夫? 詩春」
画面を下にして落ちたそれは、画面上に蜘蛛の巣を張っていた。バキバキに割れた画面を見て、鼓動はさらに速くなる。
「お前なにしてんの」
割れた画面を呆然として見つめていた私の頭上から、不機嫌そうな声が降りてきた。顔を上げると、予想通り吉木が立っていた。
「は、そんなことで泣きそうな顔してんなよ」
バカじゃん、と言って、吉木は冷めた目つきで私を見下ろす。万里はいつも通り吉木の悪態を批判することに意識が向いてしまったため、話題が変わった。けれど、私の鼓動は鳴り止まなかった。もし、万里や宗方君にも嫌われたら、私はもうここにはいられない。

『人殺しの子供』
そう、幻聴が聞こえて、私は思わず両耳を手で塞ぐ。思わず発狂しそうなほどの恐怖にかられ、このまま意識が遠のいてしまいそう。
その娘が悪いわけじゃないけど怖いよね、という万里の言葉が、現実の全てを物語っている。
「……泳ぎたい」
「え、詩春何か言った?」

泳ぎたい。今すぐ、がむしゃらに泳ぎたい。何もかも投げ出して、水をかきわけ前に進むことだけを考えたい。


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