いつか、君の涙は光となる
「妻は、もう戻ってこないんですよ、あなたが、いくら頭を下げたって……」
つうっと、涙が細い筋を作り顎先からポタリと落ちた。語気を強めた瞬間、悲しみの気持ちが溢れ出てしまったようだった。暗かった瞳に、じわじわと怒りの炎が灯っていくのを、私はただ立ち尽くして見守っていた。
「妻はもうこの世にいない。その事実だけが続くんです。僕たちの家族に、永遠に」
永遠という言葉が、こんなに重苦しいものだと知らなかった。母は号泣していたが、おじさんは眉をぴくりとも動かさずに言い放つ。
「告別式にはしっかり来てください。ちゃんと現実を目に焼き付けてください。お待ちしてます」
おじさんは、それだけ言いつけて帰っていった。
その夜、警察の取り調べから戻ってきた父に、母は離婚届を押し付けた。父は力なく、その紙切れに判子を押していた。何のためらいもないその動作に、私は存在していなかった。私は、家族を繋ぎ止める理由にはなれなかった。
小学校の制服に線香の匂いが染み付いていく。一番端の席で、私と母は無言で俯いていた。出棺の挨拶のとき、私達は外で終わるのを待っていた。ハンカチを目に押し当て泣く人、私達をゴミを見るような目つきで見てくる人、殴り掛かろうとする人、それを止める人、見守る人、色んな人がいた。
母はただただ頭を下げて、何を言われても泣かずに、申し訳ございませんと、ハッキリとした口調で謝罪していた。
ようやく関係者と離れ、もうじき式が終わる頃、私と母は今、駐車場近くの噴水前で立っている。最後までここにいて、全ての事実をこの目で見ることがせめてもの償いだと思っているのだろう。
空に昇っていく白く細長い煙を見て、私は母にかける言葉を探した。