いつか、君の涙は光となる

「もしかして、詩春? 詩春だよな」
太陽みたいに明るい声がして、驚き顔を上げると、そこには高校時代の懐かしい顔があった。
「む、宗方君……」
「すげぇー! こんなとこで会えるなんて! 元気してた?」
いつかの宗方兄のように、少し大人っぽく垢抜けた彼は、髪の毛を少しだけ茶色に染めていた。チョコレートのような色をした髪の毛に目を奪われていると、宗方君は私の背中を軽く叩いて笑った。
「いつかこのロータリー周辺で知り合いと会うんじゃないかと思ってたよ。詩春もどこかサークル入ってんの?」
「いや、私はこれからバイト向かう途中」
「そうなんだ、引き止めてごめん! あ、そういえば連絡先教えてくれる? スマホのデータ飛んじゃって連絡できなかったんだ」
数秒足を止めただけで睨まれる新宿だ。私達は歩きながら話して、連絡先を交換した。初めて、高校時代の私のことを知っている人に新宿で出会った。私はなぜかはつらつとした様子の宗方君に緊張してしまい、ぎこちない笑顔を返してしまった。
「宗方君、垢抜けたね。一瞬誰か分かんなかった」
「私服だからじゃない? 変わってないよ。詩春は髪伸ばしてるんだね」
「うん、伸ばしてるというか、伸びてしまったというか……。染めたりしたいんだけどお金なくてさ、はは」
「元々少し茶色い髪してんじゃん、そのまんまの色が自然でいいよ」
同年代の異性もさらっと褒められるほど、宗方君は〝男性〟になっていた。異性を意識しているような〝クラスの男子〟ではなかった。なんだか同じステージに立てていない気がして、なんと返していいか分からず私は少し居心地が悪くなった。胸辺りまで伸びた髪の毛先を俯き見つめると、彼は少し様子を伺うように問いかける。
< 63 / 119 >

この作品をシェア

pagetop