いつか、君の涙は光となる
「万里が、心配してたよ。詩春がメッセージに返信くれないって」
何かあったの、と言葉にせずとも疑問が滲み出ている。私はトレンチコートの大きなポケットに手を突っ込み前を向いて歩きながら、そっか、とだけ呟いた。
万里と何かあった訳ではないが、私の父の噂が少しでも彼女の耳に入っていると思うと、怖くてこれ以上一緒にはいられないと思ってしまった。彼女の明るい笑顔を見るたびに、吉木の陰に責められているような気持ちになって、卒業後は勝手に距離をとった。私は臆病な人間だ。自分が傷つかないためなら、こんなにも簡単に友達との縁を切れてしまうなんて。

「今度さ、三人で会おうよ。万里、きっと寂しいんだよ。仲いいと思ってた二人が、急に理由も分からないまま離れちゃったから」
仲がいいと思ってた二人、というワードに、私は一瞬眉根を寄せた。
「……吉木も、急にいなくなったもんな。転校じゃなくて、高校辞めてたみたいだけど」
「え……、そうだったの?」
「知らなかったの? 元々吉木、予備校の方が合ってるから辞めるかもって、担任に言ってたらしいよ」
知らなかった。まさか、〝高校生〟自体を辞めてしまっていたなんて。本当に私を追いかけるためだけに入学して、正体をバラしたから辞めたんだろうか。あの後、私は吉木のことを極端に避けてしまったため、彼と話すことさえできなかった。不意に目があってしまった時の、彼の何か言いたそうな表情だけが、今も頭の中に張り付いている。

「ごめん宗方君、そろそろ着くからこの辺で……」
「ごめん勝手に着いてきて! あのさ、良かったらなんだけど、俺のサークル興味あったら来ない? インカレだから他大でも大歓迎だよ」
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