いつか、君の涙は光となる
私が唯一知ってる、吉木の好きなもの。それに触れてみたい。そんな風に思う自分がまだいることに、私は少し絶望した。
瞼の裏に焼きついた、蛍光緑の光の中で、そのまま消えてしまいたくなった。
その時、トレンチコートのポケットの中でスマホが震えた。
そこには、もう二度と会えないと思っていた人からのメッセージが表示されていた。画面に映る〝沙子〟というたった二文字は、私の頭の中を真っ白にさせるには充分な威力を持っていた。




お世話になっております、という言葉を、社長の顔も知らない会社にかける。与えられたリストの番号を上から潰し、ガチャ切りだったらバツ、可能性がありそうだったら三角、保留中だったら「保」をつけていく。契約まで持っていけそうな雰囲気がしたら、すぐさまインカムで社員に繋ぎ、バトンタッチをする。
そんな広告営業を電話越しで続けてから、半年が経っていた。機械的に与えられたことを話してこなしていくだけの仕事だったので、自分の性格に合っていた。
< 66 / 119 >

この作品をシェア

pagetop