いつか、君の涙は光となる
「いいよ、今日水曜で不動産休みでそこまで忙しくないし。部長には伝えておいてあげる」
思ったよりもあっさりとオーケーを出してもらったことに驚いたが、私はすぐに頭を下げてお礼を伝えた。
「ありがとうございます、よろしくお願いします」
「はーい、じゃ頑張ってバリバリ架電して」
沙子からのメッセージは唐突だった。「詩春、明日会える?」という、その一文だけが私に届いていた。久しぶりも、元気? という言葉もなしに届いたので、最初は間違いで送ってしまったんじゃないかと疑ったが、短い文の中に私の名前が入っている。間違いじゃない、私に会おうとしてくれている。もう、五年以上の時が経っていた。
『会えるよ、どこで待ち合わせしようか』
震えた指でメッセージを打ち込むと、すぐに既読のマークがつき、返事がきた。
『じゃあ、新宿駅の南口で会おう』と、すんなり返ってきたので、彼女も今東京で暮らしているんだろう。何を話すか、どんな顔で会うか、何も決まっていないまま、私は了解という二文字を発信した。

新宿駅南口にある花屋の近くで、私は自分の心臓が暴れているのを感じながら、噴き出る手汗をハンカチでひたすら拭いていた。
毎朝気さくに挨拶していた友人と会うだけで、なぜこんなに緊張しているのか。この二年ですっかり臆病さが増してしまった自分に嫌気がさす。
沙子、変わってないかな。どんな声してたんだっけ。どんな顔で笑うんだっけ。そもそも、下の名前で呼んでいいんだっけ。
初対面の人と待ち合わせしているかのような緊張感の中、私の名前を呼ぶ声がした。
「詩春、だよね?」
その声は、私が記憶していた声よりもずっと低く、スラットした中性的な人がそこに立っていた。肌の白さや、顔の作りはそのままだけど、男性向けの服をサラッと着こなしている沙子がそこにいた。
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