いつか、君の涙は光となる
「一回って……」
つい口から出てしまった声を、私は慌てて手で塞いだ。
……彼の心を、何かに例えるとするならば、それは暗く冷たい深海のようだ。彼にとって、私含むクラスメイトの存在は、その海に漂う塵ってとこだろう。
あの切れ長の瞳に、私はきっと一度も映ったことがない。漆黒の学ランに身を包んだ吉木は、いつも厭世的な空気を纏いながら、人との間に分厚い壁を作っている。学年一番の成績で入学した彼は、教師からも一目置かれていて、そのことがより一層近寄りがたさに拍車をかけている。特に女子に対して。
そんな、同じクラスメイトの吉木 馨(ヨシキ カオル)は、きっと私のような人間が嫌いなのだろう。
「吉木、お前何であのスタンプ持ってんだよ。俺もあの漫画好きなんだけど」
「何、お前もあれ知ってんの」
「ウケる、吉木があんなギャグ漫画好きなの意外なんだけど」
サッカー部のエース・宗方(ムナカタ)君が彼に話しかける。男子とはあんなに楽しそうに話すのに、どうして女子には……いや、私達グループにはあんなに冷たい態度なのか。なんだか少し、面白くない。
吉木の「一」が、気になって仕方がない。あの人は、一体どんなことで涙を流したんだろう。