いつか、君の涙は光となる
「それでも、信じたかった。詩春が、偏見なんかで自分を拒絶しないってこと。自分が好きになった人は、そんな人じゃないってこと。確かめたかった。だから、今日ここに来た」
「沙子……」
「めちゃくちゃ緊張して来たのに、第一声が髪切った? って、はは、力抜けたよ」
沙子が俯き肩を震わせ笑うので、私もつられて笑ってしまった。そんなに変なことを聞いたつもりはなかったけれど、沙子的に斜め上の発言でおもしろかったらしい。
沙子が笑ってくれたことも嬉しかったけれど、それ以上に私のことを信じて会いに来てくれたことが嬉しかった。自分の好きな人を信じたいという気持ちが、当たり前過ぎて染みてしまう。同時に、万里を避けていた自分がとても情けなく思えた。
まだ笑っている沙子の頭上で浮かんでいる数字が、たった今ひとつ増えたことに気づいた。ああ、もしかして、泣いてるんだろうか。そのことに気づいたとき、バカみたいにストレートな言葉が口を突いて出てしまった。

「沙子、ありがとう。勇気を出して会いにきてくれて、ありがとう。会えて、すごく嬉しい」
笑う振りをして泣いていた沙子の肩が、少しだけ震えた。それから、ゆっくり顔を上げて、弱々しい声で呟く。
「そういう素直なとこ、ほんと変わってないな……まいるよ」
沙子の大きな目から流れる涙があまりに綺麗で、私は思わず指で触れた。溢れた感情が雫となり白い頬を伝っていく。不謹慎かもしれないけど、泣いている沙子はとても綺麗だった。

「……詩春、あのさ。もしかしたら詩春には、後ろめたい過去があるのかもしれないけど、自分は詩春の味方だからさ」
唐突な話題のように思えたが、沙子の震えた手を見て、もしかしたら沙子は何か知っていて会いに来てくれたのかもしれないと思った。そういえば、沙子が転校した高校は、私の地元の近くだったから、父の噂もどこかで知ってしまったのかもしれない。
でもそのことを、敢えて口にしない沙子の優しさが、胸に刺さる。その時にはもう、沙子や万里が、自分の過去を知っていても知らなくても、どっちでもいいと思ってしまっている私がいた。

「詩春のことをよく知らない人は、詩春の今までの過去に目が行くかもしれないけど、これからも詩春と一緒にいたいと思ってくれる人は、詩春の今を見てくれるよ。少なくとも、自分はそうだよ」
「沙子……」
「もっとさ、気楽に考えようよ。人は今を生きてる時しか、生きてることを実感できないんだから」
沙子は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。私は、沙子の大きな瞳を見つめながら、そうだね、と頷き返した。



沙子と初めて出会った頃が、はらはらと蘇ってくる。そういえば彼女は、出会った頃から力強くて眩しかった。
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