いつか、君の涙は光となる
「スナコって読むんで、よろしく」
第一印象は、冷たい子だな、だった。キリッとした目元と、見た目どおりキツイ口調が相まって、近寄りがたい空気を醸し出していた。
そんな彼女が、聞いてもいないのに自分の名札を指差して読み方を教えてくれたのは、化学の実験でチームが一緒になった時だった。
「シハルです。よろしく……」
「私はマリ、文系なんで科学役に立てないけどごめーん。砂子ちゃん理系っぽいよねえ」
万里ともこの時初めて話した。高校に入学してから授業が始まってまだ間もないのに、グループ実験なんてハードル高すぎると、私は前日怖くて寝られなかった。また中学のときのようなハブにされる思いはごめんだ。
精一杯笑顔で、愛想よく答えたが、砂子はつんとした表情のまま私と目を合わせてくれなかった。
「砂子ちゃんって頭良さそうだよね。私バカだから足引っ張ったらごめんね」
こういう強気なタイプの子を怒らせたら怖いから、慎重にならなくては。そう思えば思うほど緊張して、下手に媚を売るような言葉しか出てこなくて、砂子はそういうのが嫌いな人間に見えた。案の定彼女は苛立ちを見せながら、私にフラスコを渡す。そしてナイフのように尖った言葉で空気を切り裂いた。
「会って間もないのに、憶測で話すのやめて。なんにも知らないでしょ私のこと。あと自虐とかも気を使うからやめて」
その通りです。ぐうの音も出ません。私は多分このとき、相当アホな顔をしていたんだと思う。そんな私を見て、彼女はなぜか屈託無く笑ったんだ。
「繊細かよ、傷つきすぎ」
「え!? ごめん、えっと」
「万里の図太さ分けてもらったら」
「ちょっと砂子、それどういう意味ー?」
人にどう好かれようとか、どう輪に入ろうとか、そんなことを頭で考えることがバカバカしく思えたのも、沙子と万里のお陰だった。人との距離を気にしてばかりいた中学時代の私にとって、彼女たちの〝気楽さ〟はとても心地がよかった。