いつか、君の涙は光となる
 
 もしも、吉木という人間と、ただのクラスメイトでいられたなら、私と吉木の関係性はどんな風になっただろうか。普通の友達になれただろうか。そんなことを、最近ふと考えるようになった。
 バカだな、そんな、もしもの過去を想像するなんて、虚しくなるだけだというのに。

「今日のリストを頂けますか」
「 お、詩春ん、おはよう」
 仙崎さんは、コーヒーを飲みながら片方の手で資料を取り出した。不動産屋の番号が並んだそれを受け取り、席に着こうとすると、仙崎さんに呼び止められた。
「この前見たよー、詩春ん」
「え、何をですか」
「南口を男の子と仲睦まじく歩いてるところ。彼氏?」
「仲睦まじく……」
 そんな風に言われて思いつくのは、宗方君くらいしかいなかった。別に腕を組んでいたわけでも、見つめ合っていたわけでもないし、もちろん宗方君は彼氏ではない。違います、と否定すると仙崎さんはつまらなさそうに声を漏らした。
「えー、でも彼側は詩春んのこと好きそうに見えたけどなあ」
「好きって、そもそも、よく分からないです……」
 まだ誰もいない早朝のオフィスに、私の自信なさげな声がスーッと消えていった。そんな私を見つめていた仙崎さんの顔が、ぽかんとした顔からだんだん呆れた顔になっていく様子を、まるでスローモーションの様に観察できてしまった。
「暗い」
「す、すみません……」
「暗い暗い暗い」
 そう連呼して、仙崎さんは私の伸びきった前髪を乱暴にかきあげた。一気に開けた視界に飛び込んできた美しい顔に圧倒されていると、彼女は吐き出すように、暗いともう一度言ってのけた。
「暗くてもいいけど、それを理由に人の痛みに鈍くなるんじゃないよ」
「え、仙崎さん……」
「あんたたまに、自分は世界とは関係ないみたいな顔するときあるけど、それ別に誰のためにもなってないから」
 グサッ、という効果音が現実世界にもあるとしたら、今まさにそんな音が鳴っていたと思う。どの場所で切っても刺さってしまう言葉に、私は思わず自分の胸を手で押さえてしまった。傷ついた顔で言葉を失っている私を見て、仙崎さんは自分の発言にハッとしたのか、私の肩を優しく撫でた。
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