いつか、君の涙は光となる

「ごめん。詩春ん見てると、うちの甥っ子が頭に浮かんじゃってつい。言い過ぎました」
「い、いえ……。衝撃で少しクラクラしてますけど、なんか少しだけ目が覚めた気もします」
 人の痛みに鈍くなるな、という言葉が、胸の中にずしんと響いた。それは、自覚している自分に欠けた部分だったから。沙子と再会してから、無駄に自己嫌悪したり、世界を狭めることを止めようと思っていたのに、まだ抜け切っていないようだった。
 誰かを好きになるとか、恋愛のことになると尚更だった。それは、自分とはかけ離れた何かだと思っていたから。
「甥っ子さん、私と似てるんですか」
「似てるね。まあ、あの子は少しややこしい過去持ってるからってのもあるけど、自分に欠けてるものばかり見つける人生送ってるとこが似てる」
「仙崎さん、これ以上刺さると致命傷になります……」
「甥っ子も恋人作ったりすれば変わんのかね。死ぬまで後悔すべきことがあるから、あたしみたいに陽気には暮らせないって言われたよ」
「すごい甥っ子ですね……、仙崎さんにそんなこと言えるなんて」
 私のコメントに対して、どういう意味だと低い声で返されたところで、他のバイトの人がオフィスに入ってきた。仙崎さんは何事もなかったかのように挨拶をして、リストの整理を始めた。
「陽気なんじゃなくて、陽気になれる環境を自分で作ってきてんだっつの。……なんて、詩春んに愚痴ってどうするってね。今日もよろしくね」
「あの、仙崎さん」
  色々と鋭い言葉を浴びせられて、もうエネルギーは残り少ないはずなのに、仙崎さんの言葉で答えが欲しくて思わず問いかけてしまった。
「人を好きになるって、どういう気持ちですか」
 大真面目にバカな質問をしている私を見て、仙崎さんは一瞬固まった。それから、斜め上を向いて何か言葉を見つけるそぶりを見せて、静かに答えた。
「大切にしたいってことだと、私は思ってるよ。その人の弱い部分も含めて」
「弱い部分……」
「ほら、席ついて、架電、今日も頑張って」
 人を好きになるって、弱い部分も大切にしてあげたいって思うことなんだ。だとしたら私は、まだ誰のことも好きになれていない。いつか、自分の弱さも曝け出してぶつかりあえる人と出会えるだろうか。あの日の、プールサイドでの私のように、剥き出しになれる日がまた来るだろうか。

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