いつか、君の涙は光となる

運命か必然か


 最初はただ気分転換になればと思って始めた山登りも、宗方くんの影響もあってどんどんハマっていった。元々本を読むことも好きだったから、今まで手に取ったことのなかった雑誌や専門誌に触れる機会が増えたことも嬉しかった。ウェアも色んなデザインがあるし、アウトドアのファッションの魅力にも浸かってしまった。
 ただ、調べていくうちに、吉木の名前を見かけることが何度かあった。元々有名な登山サークルに所属していることもあってだろうが、画像がちょくちょく上げられていた。その大元は、噂されていたであろう、プロ写真家の娘、「里中アイリ」さんのアカウントからだった。もちろん彼女がアップする写真は吉木の写真だけではなかったが、吉木の写真の時だけ明らかに反応率が高かった。
 確かに彼女が撮る吉木は魅力的で、野生的な空気を纏っていた。緑のウェアを着た吉木が、鋭い瞳で頂上を目指している姿は、写真越しでもどきっとするものがある。里中さんの映像の切り取り方がとても素敵で、私はすっかり彼女のファンになりつつあった。彼女自身も山登りが趣味なので、美しい山の写真も度々アップされている。
「個展やるんだ……」
「え、アイリさんの?」
「うん、山の写真に絞った個展らしい」
 スマホでアイリさんの告知投稿を見ながら呟くと、宗方君が興味ありげに画面を覗いてきた。少しくすんだ、青緑色の山の景色の上に、細い英字で「airi」と書かれている。表参道から少し離れたところでひっそりと行われるらしい個展の情報は、SNS上でそこそこ拡散されていた。
 宗方君の大学にある部室で、アイリさんの山の写真に見惚れていると、宗方君がぼそっと隣で呟いた。
「一緒に観にいく?」
「え、この個展を?」
「うん。もしかしたら吉木に会えるかもね」
 もしかしたら会えるかも。その可能性は、この告知を見た瞬間私も少し考えた。謝りたいことも、聞きたいこともある。だけど、吉木に避けられたら私はきっと一生立ち直れない気がする。スマホを見たまま固まっている私に、宗方君はぽつりと呟き始めた。
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