いつか、君の涙は光となる
「あの、吉木、君は、元気ですか」
私のカタコトな質問に、アイリさんは一瞬きょとんとしたが、再び柔らかく微笑んだ。
「元気ですよ。万里さんも元気そうだったと、伝えておきますね」
「ありがとう、ございます」
かあっと熱が顔に集まっていくのがわかる。まさか自分の口からこんな質問が出るとは思わなかった。突然アイリさんに話しかけた私に驚いたのか、宗方君も隣で少し目を見開いた様子で私を見ていた。これ以上静かにすべき場所で話すのも申し訳ないので、私と宗方君は十分ほどで展示場をあとにした。
「会えなかったね、吉木と」
「宗方君、私の電話番号勝手にっ」
「だって俺宛に吉木から連絡来たら、そのこと詩春に伝えるかめちゃくちゃ迷うもん。本当は会って欲しくないから」
電話番号を勝手に教えられたことを咎めたのに、宗方君は想像していなかった返しをした。そのまま固まっている私に、彼は飄々とした様子で言葉を続ける。
「不安要素は取り除いておきたいのが本音だけど、そんなことしたっていずれボロ出るし」
「宗方君は、優し過ぎだよ……」
「そりゃそうだよ。今、絶賛優しい男アピール中だから」
「そんなことしなくても、宗方君が優しいの知ってるよ。部活の先輩にいじめられてた時、変な同情でクラスから浮かないように遊び誘ったりして助けてくれたじゃん」
そう言うと、宗方君はそんなことあったっけ、と頭をかいて笑った。そんなことあったんだよ。キャンプも誘ってもらえて、本当に嬉しかった。クラスのムードメーカー的な存在だった宗方君は、いつも太陽みたいに笑ってた。
そんな宗方君だからこそ、自分の過去を話せない。宗方君とは、シリアスな話をせずに、今の私を見てほしいし、今この瞬間を一緒に楽しめる友達同士でありたい。この距離感のままでいたい。そう思うことは、きっと彼を苦しめてしまうんだろう。でも、この気持ちが今の私の正直なところだ。
絶対に、変に期待をさせたり煽ったりして、傷つけたくない。だから私は、言わなきゃいけない。
「……あの、私、宗方君のことを、恋愛対象として見ることは多分できない。ごめん」
思わず目を瞑って謝ると、彼はすぐにうんと頷いた。そのことに驚き顔を上げると、そこにはさっきと変わらぬ表情の宗方君がいた。