いつか、君の涙は光となる
「そうだろうなと思ってたから、全然大丈夫」
「え、宗方君……」
「俺多分、まだ詩春のこと全然知らないんだよね。それでも好きって、なんかおかしいけど」
宗方君の言葉にふるふると首を横に振ると、彼はふぅ、と小さな溜息をついてから、私の背中をバシッと叩いた。
「変に気遣わなくていいよ。俺は、学生の時あんまり話せなかった詩春と、あの頃より話せてるだけで楽しかったりするから」
行こう、と言って、宗方君が私の腕を引っ張る。その瞬間、頭の中に宗方君が最近涙を流した映像が流れてきた。
その映像の中には、制服姿の吉木と宗方君がいた。吉木が、いつもよりずっと怖い顔をして宗方君のことを責めている。もしかしたら、宗方君が言っていた通り、悟さんのことで怒っている時のことだろうか。いや、まさか。
ノイズに紛れて上手く聞き取れない。ぎゅっと目を閉じて、吉木がなんて言っているのか集中して聞こうと試みる。口の動きと途切れ途切れの音に耳を澄ませると、ある言葉が聞こえてきた。
『お前がなんも知らないのは腹立つから言うけど、あいつもう少しで襲われてたぞ』
冷たく鋭い目つきで、吉木は宗方君を射抜いていた。自分の好きなやつ、というのが、宗方君の言った通り私だったのなら、やはりこの台詞からは悟さんの事件しか思い浮かばない。まさか吉木が、こんな風に怒っていたなんて、知らなかった。
どん、と軽く胸を叩いて吉木が去っていく。残された宗方君が、虚しげに一言つぶやいた。 『情けねぇ……』という言葉と一緒に、悔し涙のようなものが彼の目から一滴だけ溢れていた。それから、なんでいつもあいつなんだ、という掠れた独り言が誰もいない教室に響いた。
そこまで見たところで腕は離され、宗方君は突然吹っ切ったように話し始めた。
「なんて嘘。俺吉木のこと苦手だからそんなに会いたくないし、詩春に振られたのもめちゃくちゃ凹んでる」
私の方を見ずに、早歩きしながら暴露し始めた宗方君に、戸惑いつつもほんの少し笑ってしまった。彼は今、どんな顔をしているんだろう。
「吉木のこと嫌いだったのは、詩春と吉木の間に、他の人が割って入れないような空気があったから。あと、俺に無いものばっか持ってたから。でもあいつ、急にいなくなって、いなくなったらいなくなったで腹立つし、なんなんだろうな。もっと前に決めてたことなら言えよって」