いつか、君の涙は光となる
 いつもの爽やかな口調とは違った、少し荒っぽい話し方で吉木の愚痴を言い始める宗方君、そんな彼を初めて見た。知らないのは私も一緒だ。私もきっと、宗方君のほんの一部しか知らない。なんだか少しだけ、本当の宗方君を見れた気がして私は不謹慎にも嬉しかった。
 そんな時、ふと昔父に言われた言葉を思い出した。その人の本当の気持ちは、その人に聞かないと分からないんだ、って。宗方君の気持ちを、もっと知ってみたい。そう思って、私は軽率な質問をしてしまったんだ。

「宗方君は、なんで私と吉木が特別な関係かもって、思ったの? 吉木と私は、なんかこう、もっと不穏な空気だったと思うけど……」
 そう言うと、宗方君はピタリと突然足を止めて、気まずそうに私を見つめた。何か言うのを躊躇う素振りを見せてから、でももう時効か、と彼は言い聞かせるように呟く。そんな風に間をつくられると、変に心臓がざわついてしまう。でもそのざわつきは、次の瞬間すぐさま勢いを増した。
「吉木、入学した当初、詩春のこと、俺の日常を奪った奴って言ってたんだよ」
 奪った奴、というワードが、恐ろしいくらい胸に強く突き刺さった。明らかに様子が変わった私に気づくことなく、宗方君は全く違う解釈で話を進める。
「最初は恨んでる系? なのかと思ったんだけど、キャンプの時のやり取りや、詩春のことを助けたりした吉木を見て、ただの冗談だって後々分かったけどさ。元恋人同士とか、そういう意味深な関係なのかなって、その時は変に勘ぐっちゃったんだ」
「そ、そうだったんだ……」
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