いつか、君の涙は光となる
泣いてもいい
暗く、深く、冷たい。ずぶずぶと水の底に沈んでしまったようなこの感覚。ああ、まただ。浮上した気持ちでいたけれど、足の鎖はまだあのプールの底に繋がっていたんだ。結局私は、仄暗い水底からしか、世界を見ることはできないのか。
人は簡単に変われないのか。誰もが一度は悩むこんな単純な葛藤が、こんなにも自分を苦しめていく。
このまま、沙子に励まされたことも、万里や宗方君との出会いも、仙崎さんに喝を入れてもらえたことも、全部全部無駄にして、過去にとらわれてずぶずぶ生きていくんだろうか。変わりたい。強くなりたい。そう思うのに、どうしてこんなにも心が弱い。自己嫌悪と後悔の繰り返しで、足元がずっと覚束ない。形のない不安と追いかけっこをしているみたいだ。
誰に好かれたくて、誰を大切にしたくて、生きているんだっけ。私は、誰に信じてもらえれば生きていけるんだっけ。
どうしたって切り離せない過去がある。そういう人は、どんな風に生きていけばいいんだ。誰か教えて。誰でもいいから教えてよ。
『詩春ん、今日休み? 連絡待ってます』。
一軒の伝言メッセージを聞いたあと、私はスマホを静かにポケットにしまった。初めて無断欠勤をしてしまった罪悪感で、胸が軋む。私は、どこかに閉じこもりたい一心で、気づくと高校時代の最寄り駅に辿り着いていた。水着も何も持っていないのに、無心であの市民プールを目指してしまった。
人も疎らな駅で、改札を通り抜けると、そこには二年ぶりの懐かしい景色が広がっていた。
この場所は、自分にとって、もう近づいてはいけない場所のような気がしていた。何かマイナスな感情に引っ張られてしまう気がして。
ポケットの中で再びスマホが震えている。仙崎さんの信用さえ失くしてしまっただろう。心の中で謝りながら、私は駅の階段を降りてバス停へ向かおうとした。
その時だった。ちょうど今駅に向かってバスから降りてきた女性と、バチッと目があってしまった。私はその女性を見た瞬間、全身が凍りついていくのを感じた。