いつか、君の涙は光となる
「あれ? あんたもしかして……」
眉を思い切り顰めて近づいてくるその人は、紛れもなく水泳部の先輩だった。ショートカットからロングのパーマ姿に変わっていた彼女だけれど、自分より弱いものを見た瞬間の、威圧感のある視線はあの頃のままだった。
棒立ちのまま、逃げることもできずに対面するまでの時間が、とても長く感じた。上から下まで私を舐めるように見た彼女は、ひしひしと私に対する恨みを感じた。
「あんたのせいで、人生ほんとめちゃくちゃになったから、いつか文句言ってやりたいと思ってたんだわ」
ドン、と一発私の胸を叩いた彼女は、私をそのまま壁に追い詰めた。人影の少ない場所に追いやられた私は、まさに蛇に睨まれた蛙のような状態だ。
「自宅謹慎になったせいで推薦は落ちるし、彼氏には振られるし、ほんと散々だったんですけど。しかも辞めずに健気にそのあとも部活続けちゃってさあ」
「す、すみません……」
「言っとくけど、いつかお前のこと苦しめようと思って、お前の秘密握ってるからな、こっちは」
倉庫で叩かれた記憶が蘇り、全身が震え始めた。私の秘密を知っているなんて、そんなのひとつしか心当たりがない。
「父親、モラハラで人殺したんでしょ。しかも、殺した相手はクラスメイトの母親」
あまりの鋭さに、キーンと耳鳴りが聞こえた。こんなに面と向かって言われたのは初めてのことだった。冷や汗がどっと体から溢れ出ていく。立っていられない。
しっかりしろ、何か言い返せよ、自分。
「どんだけ他人の人生狂わせたら気がすむんだよ」
「わ、私は……」
「何? なんか言い返すことあるわけ、殺人犯の娘のくせに」
私はぎゅっと目を瞑って、自分の胸に手を押し当てる。自分の心音を確かめて、なんとか気持ちを落ち着かせようと試みる。
負けたくない。ここで負けたら、昔の私と何も変わっていない。なのにどうして、自分を守る言葉が出てこない。悔しい。変わりたい。強くなりたい。
ぐっと歯を噛み締めたその時、走馬灯のように過去の映像が頭の中に浮かんできた。
父が再婚したと聞いたあの頃、私は気持ちの整理がつかずに、深夜までプールに逃げ込んでいたんだ。消えちゃいたい気持ちになって、ずっと水の中を漂っていた。そんなバカな私を見つけてくれた彼は、吉木は、私を強くする言葉をくれた。