いつか、君の涙は光となる
ぽうっと、蛍の光が灯るように言葉が頭の中に蘇ってきた。
『お前は、誰かを傷つけたりしない』と、あの日君は、言ってくれたんだ。
それがどれだけ励みになったか、もう二度と会えない君は、知らないでしょう。
「私は、誰のことも傷つけてません。だから先輩に恨まれる筋合いもありません」
「は、なにそれ」
「私の過去を言いふらしたければ、ど、どうぞご勝手に」
目の前にいた先輩を押しのけて、私はその場から駆け出した。先輩は、刃向かった私に驚いた様子のまま、その場に立ち尽くしていた。
追われて殴られたらどうしよう。本当に言いふらされたらどうしよう。心臓はバクンバクンと大きく跳ね、尋常じゃないほどの冷や汗が出てきた。
落ち込んで篭るためにここに来たのに、まさかこんな暴言を吐いている自分を想像できただろうか。自分の知らない自分がいたことに、私は激しく動揺していた。
勢いで駅から出てしまったけれど、この後は一体どうしよう。もうプールにも行く気にはなれないし、実家に帰るつもりもない。ひとまず時間を確認するためにスマホを開くと、知らない番号からの着信が一件と、留守番電話が入っていた。仙崎さんの番号は登録しているから、彼女以外の人からの電話だ。
このタイミングでかけてくる人に心当たりがないまま、私は留守番電話を再生するためにスマホを耳に当てた。ピーっという機械音のあとに、再生は始まった。それは、どこかで聞いたことのある、ぶっきらぼうな声だった。
『あー、よう、久しぶり宗方。』
数年ぶりに聞く吉木の声に、頭の中が一瞬真っ白になった。間違い無く、彼の声だ。宗方君が私の番号を自分の番号だと装ってメモを渡していたので、私宛に電話がかかってきたんだ。
『里中から聞いたよ。個展来たんだって? 最後気まずくなったまま高校辞めたのに、なんでわざわざ来たんだよ』