先輩から逃げる方法を探しています。
先輩は海の方を向いたまま、ようやく口を開いた。
「だけど、俺が初めて見つけた方法は喧嘩だった。だからもう手遅れなんだよ。俺はもう喧嘩をして忘れる方法に溺れてるから」
好きで喧嘩をしているわけじゃない。
嫌なこと、辛いことを忘れるためにしている。
先輩にとって、初めて見つけることができた方法がただ喧嘩だっただけだ。
その方法が悪いことだとわかっていても、忘れさせてくれる唯一の救い、だった。
だけど今は違う。唯一なんかじゃない。
「先輩。もう喧嘩はしないでください。しなくていいです」
「は…?俺に我慢しろって?それが無理だったからこんな」
「違います。今は私と耀先輩がいます。私達とこうして話したりしていると忘れられるんですよね?」
「そう…だけど…」
私と出会って…それから耀先輩とも出会ったから先輩はほとんど喧嘩をしなくなっていたのは確かなこと。
きっと、私達と話したりすることで忘れられるっていうのは本当だからだ。
だったらもう喧嘩をする必要はない。
違う方法を見つけられたんだから。
「耀先輩は忙しいですから毎日は難しいかもしれませんが、その時は私がいます。先輩が辛い時は話しましょう」
「え…でも、翼ちゃんは俺と関わるの嫌なんでしょ?」
「嫌ですよ」
「このタイミングで直球で言われるとは思ってなかった」
先輩は体操座りをして顔を埋める。