先輩から逃げる方法を探しています。
私が腕を軽く叩くと先輩は目だけを覗かせた。
「すみません、先輩。間違えました。嫌でした」
「やっぱ嫌な……でした?」
「はい。今は…私自身もわかりません。ただ、嫌ではないことは確かです」
「つまりようやく嫌いから普通になれたってことか、俺」
「それは違いますが」
元々、先輩のことが嫌いなわけでないし。
先輩と関わると『目立つ』ということが嫌だっただけだ。
正直、今でも目立つことは嫌だ。
だけどその理由なんかよりも先輩と関われない、話をできないことのほうがもっと…嫌な気がする。
これが「好きだから」という理由になるのだろうか。
うーん……
「じゃ…好き?」
「それは………その…時間をくれませんか?」
「え?」
「先輩のことすっ…好きかまだわからないので…考える時間をくれませんか?」
顔を上げて固まったまま私の顔を見る。
わからず私もただ先輩の顔を見ていると、突然「ふっ…」と先輩は笑い始めた。
「あははははっ…!!」
「え!?どうしたんですか!?」
「翼ちゃんってほんと真面目だよねぇ。それにめちゃくちゃ意地悪」
「い、意地悪?先輩には言われたくないですけど…」
「えー?」
右手を取られさ、指先を握られる。
温かい先輩の手。
小指と小指を絡ませると、先輩は微笑んだ。
「いいよ。翼ちゃんが納得できる答えが見つかるまで待つよ」
「すみません。ありがとうございます」
「謝ってお礼を言うことじゃないけどねぇ。代わりに翼ちゃんに絡むけどいい?」
「いいですよ。というより今更それを気にされても……って先輩?」
また顔を埋める先輩。
なんだか今日の先輩は様子がおかしい。
困ったと言いつつ笑っていたり、急に笑い出したり…。
笑っているから多分悪いことではないんだろうけど。
「あっ!はるー翼ー!やっと見つけたー」
声のした後ろを振り向くと手を振って此方へと駆け寄ってくる耀先輩の姿が見えた。
それと同時に先輩はようやく顔をあげ、やって来た耀先輩を見て、口を開く。
「ちょっと耀ちん。俺が翼ちゃん達を連れてくるまで部屋から出ちゃ駄目だって言ったでしょ」
「だってはる遅いし何かあったんじゃないかと心配で…香澄に聞いたら翼は外にいるって言うし」
そして先に私を探そうと外に出ると先輩も一緒にいたと。
耀先輩は両手を前に出し、笑顔を見せた。
「とにかく2人ともなにもなくて良かった。ほら、戻るぞ」
差し出された手をそれぞれ握り、私たちは部屋へと戻った。