先輩から逃げる方法を探しています。
そんなこんなで「話しましょう」なんて言っておきながら、全く連絡はしなかったのだ。
そもそも実際に会って話す時もほとんどが先輩から話題を振ってくるし、私が思いつくわけがない。
…そうだ。先輩から連絡をしてくれば良かったんだ。
それなのに私が意地悪をしただの言われても困る。
「先輩から連絡をしてくれば良かったじゃないですか」
「どうやって?」
「どうやってって…普通に携帯で」
「翼ちゃんの番号もアドレスも何も知らないのに?」
「……あ」
私が先輩の番号を知っているのは、合宿の時に先輩に一方的に渡されたからだった。
だから先輩は私の番号を知っているわけがない。
つまり、連絡をしてこれるわけもないのだ。
「ようやく気付いた?」
「…はい」
「ん。それじゃお返しは終わりにしてあげる」
先輩は上半身を起こすと、背中に回していた腕を離す。
意地悪というのはあまりしっくりはこないけど、とりあえずは私が悪かったことは確かだ。
それなのに案外簡単に許してくれたことに少し驚いた。
先輩のことだからまだあのままでいるか、何か要求をしてきそうだったのに。
「どうしたの?」
「いえ。なんでも…」
「そ。離れないの?」
「えっあっ!離れますよ!」
すぐに立ち上がり、先輩から距離を取って座り直す。
「さすがに遠すぎるよ」と笑いながら先輩は私の隣に座った。