先輩から逃げる方法を探しています。
コテージに戻ると、眉間にしわを寄せた先輩に出迎えられた。
台所に買ってきた材料を置きに耀先輩の後をついて行こうとすると、先輩に引き止められる。
「なんですか」
「ちょっーと戻ってくるの遅くない?何してたの?」
「少しだけ耀先輩と長話をしてしまっただけです」
「長話ねぇ…って待って。耀先輩…?」
「はい?」
長話の部分ではなく、私が『雨谷先輩』ではなく『耀先輩』と呼んでいることがどうやら引っ掛かったらしい。
帰り道に「耀って呼んでほしいな」と言われ、特に断る理由がないために『耀先輩』と呼んでいるだけだ。
耀先輩は兄弟姉妹が多いため、苗字で呼ばれるよりも名前で呼ばれたほうが慣れているんだとか。
どうしてそこに先輩が引っ掛かるのかが謎だ。
もしかして今まで先輩だけが『耀ちん』と名前で呼んでいたから嫉妬している…とか?
だとすれば、先輩はどんだけ耀先輩のことが好きなんだ…。
「翼ー作るぞー?」
「はい。今行きます。では、先輩」
何も言わない先輩の横を通り過ぎる。
台所へと行き、カレー作りを始めた。
「先生と松木くんはいい場所がないか見てくるわね」
「わかりました」
「松木くん、拗ねてないで行くわよー」
「うるさいよ、しゅがーちゃん」
先輩をからかい楽しそうな先生の声と、少し不機嫌そうな先輩の声は外へと消えて行った。