先輩から逃げる方法を探しています。


手を少し挙げ、携帯を空へ向ける。

先輩のしたことは正直、悪質な悪戯だと思う。

いつもの私であればすぐに怒って、今こうして先輩が一緒にいることを拒んだだろう。

だけど、今は怒る気はしない。

怒りよりもなぜだか安心感に近いものを感じたからだ。

そんなわけのわからない感情を不思議に思いつつ、シャッターを切る。


「ねぇ、翼ちゃん。寝転がって撮ったほうが綺麗に撮れるかも」


振り向くと、先程まで座っていた先輩は仰向けに寝転がり、隣をぽんぽんと叩く。

確かに寝て撮ったほうが空だけを綺麗に写せるかもしれない。

それにずっと首を上に向けたまま写真を撮るのはきつい。

先輩の叩いた所よりも少し離れた所に座ろうとすると、手を引っ張られた。

…いつの間に近くに移動して来たんだ。


「なんで離れようとするかなぁ。俺の腕が届かないじゃん」

「先輩の腕?」

「直接地面に頭を置くのは痛いだろうから俺の腕を使って」


つまり、先輩の腕枕を借りろ、と。

そんなの答えは1つだ。


「結構です。別に痛くても構いません」

「俺が構うから駄目」

「構わなくていいですって」

「…あーあ。しゅがーちゃんに言っちゃおっかな~。夜中に勝手に出歩いてた悪い子がいたって」

「べ、別にいいですよ。言っても」

「そう?一応部活の合宿だし、先生に黙って外出するのはどうかと思うけどなぁ?」

「うっ……」


それは先輩の言う通りだ。

自由なことが多いため、忘れがちだったが、この天体観測はあくまで部活の一環。

つまりは、学校行事である。


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