契約書は婚姻届
やることのない朋香は諦めて、比較的ましかと思える映画を見て時間を潰している。

「外出したい……。
これって体のいい軟禁だよね……」

先日、ガレージを覗いたら、出ている仕事用のベンツのほかに、このあいだ本邸に行ったときのアウディともう一台、ポルシェが停めてあった。
車を借りて出かけることも考えていたが、左ハンドルの、しかもあんな車を運転する勇気はない。

歩いて……とも考えなかった訳じゃないが、敷地の森を出るまでに徒歩で十五分、そこから街までさらに十五分と聞いて諦めた。

第一、朋香にはクレジットカードはおろか現金すら持たされてないのだ。

「尚一郎さんにお願いしてみるか……。
キスのひとつでもしたら、機嫌よく、うんって云ってくれないかな……」

……はぁーっ、朋香の悩みは尽きない。


 
夕食後、いつものように膝の上に座らされ、タブレットを見ている尚一郎を、ついちらちらと窺ってしまう。
< 102 / 541 >

この作品をシェア

pagetop